『リーマン・ショック10年』

千葉の県人 鎌田 留吉

9月15日といえば昔は敬老の日であったが、今やリーマン・ショック10年と数えられるようになった。その日に向かって各メデイアで、当時枢要な地位にあった人々へのインタビュー記事がみられた。数あるその中で私はブルンバーグの9月13日に掲載されたバーナンキ元FRB議長の記事が印象に残った。

彼は「危機がどれほど広範囲で破壊的なものであるか誰も予想しなかった」と言い、その後のリセッション(景気後退)が深刻化した要因として、08年のリーマン経営破綻で金融システムを飲み込んだパニック(=電子上の取り付け騒ぎ)を取り上げている。そして将来的には「経済モデルや予測に信用市場の要素を一段と緻密に盛り込むこと」を求めている。

かねてから私は、メガバンク等が主催する「経済予測」の講演会に出席する度に「隔靴搔痒感」を覚えるのが常であった。何故ならエコノミスト達は、過去の、次のような数字を挙げて考察する。GDP、消費者物価指数、インフレ率、雇用統計、失業率、経常収支、家計・企業景気動向等及びそれらの変化率。しかし、長年市場に携わっている人間からすると、ジョージ・ソロス氏(写真下)のいう「再帰性」=「市場参加者の世界理解(株価や債券価格となって現れる)と世界の現実的なありよう(実体経済)が双方向的に干渉しあうこと」こそが経済全体の真の姿だと考えているからである。

米国企業の2008年におけるBBB債(投資適格債、BBからは投資不適格債=ジャンクボンド)は約7000億ドルであったものが、今やそれが4.2倍の3兆ドルにも膨らんでいる。これは有り余る金に対して貸付の優良物件が少ないためBBBでも貸してもよいという投資主体が増えた為である。しかし、BBB債は一朝ことあれば容易にBB債に転落する。その時、機関投資家の多くは自動的に投資対象から外し、売却せざるをえなくなる。

信用市場における投資対象の格付けの変化と、その累積額の推移、そして市場の変化による格付けの低下と強制売却を考慮しつつ経済予測を立てること。現代の「金融恐慌」は実体経済が先に悪くなって起こるものではなく、金融市場におけるショックにより、実体経済から資金が次次に流失することにより起こるものである。

ここ数年、日本のメガバンクは新興国への貸し出しを累積させてきた。しかし、ここにきての新興国の株価暴落と債券の暴落により、恐らく膨大な含み損を抱えることになっていることであろう。その影響は近い内に国内における中小企業への融資引き締めとなって現れるに違いない。

2018.9.18 記