『心に叶わぬもの』

千葉の県人 鎌田 留吉

賀茂川の水、双六の賽、山法師、これぞわが心にかなわぬもの」と白河法皇が嘆いたという。
逆に言えばこれ以外のことは思うがままであったということだ。

我が安倍内閣になってから、合法的独裁ともいえる政治が続いている。
構成メンバーの選択時から結果が読める「第三者委員会」と称する機関で審議した体裁を繕い、思う通りの結果を導き出す。「加計学園」と「森友学園」問題で初めて現代的な加計(カ)と森友(モ)川の奔流にもまれたようなものだ。

その安倍内閣の独裁を許してきた「要諦」は「人事」にある。
一つは、小選挙区制における公認候補の選択である。公認されない限り膨大な選挙資金が支給されない。そのため、執行部への批判は抑制される。
二つは、官僚の「忖度」を誘発する根本原因となった、今話題の「内閣人事局」である。2014年に成立したこの制度により高級官僚の人事権が内閣に握られた。官僚は自己の出世及び保身のため内閣の顔色就中、総理大臣の意向を(勝手に)汲むようになった。

私は今回の加計&森友問題に安倍総理大臣自身は全く関与していないだろうと思う。おそらくは官僚の勝手な「忖度」により引き起こされた事件であろう。
ただ黒幕がいるとしたら、私は菅 義偉(よしひで)官房長官その人であると考えている。
第一に「内閣人事局」は内閣法第21条により内閣官房に置かれることになっている。その4項に人事局のトップである内閣人事局長は「内閣官房長官を助け、命を受けて局務を掌理するものとし」「内閣官房副長官のなかから指名」されるからである。つまり実質的トップは官房長官なのだ。
第二に菅義偉氏の陰湿な性格である。彼は横浜市議の頃から「影の市長」と呼ばれるほどで、暗に権力を行使する癖がある。2006年に総務大臣に駆け上がったとき、放送法をチラつかせてメデイアに圧力をかければすぐに怯むことを覚えた。2006年4月日本郵政総裁の生田正治氏を更迭し、西川善文氏にすげ替え、2013年日本郵政社長の坂篤郎氏を就任僅か6か月で首切った。そして初代「内閣人事局長」に内定していた杉田和博氏を直前に撤回し、加藤勝信氏に変えさせた。
「これで、菅官房長官に対して官僚は従順になったはずで、その後、官僚は菅氏の剛腕を恐れるようになった。」と高橋洋一氏は語っている。

これに対し人事権をチラつかせることができないときの菅氏は極めて脆い。
2015年4月新任の翁長(おきな)沖縄県知事を説得に態々沖縄入りした際、翁長氏の論理に何の反論もできず、引き下がらざるを得なかった。菅氏が法政大学法学部の2年先輩であるにも関わらずである。

広い意味での「人事」を絡ませられる事柄については、遠隔操作を含め強権を発動出来てきた。「この世をば我が世とぞ思う望月の欠けたることもなしと思へば」という藤原道長の気持ちになっても不思議はない。

しかし、そのような驕りに満ちた安倍内閣が犯した最大の過ちがある。それは日銀のETFの購入である。マーケット、殊に株式市場の暴落は誰も停めることができない。
2012年秋からの日銀の買い越し額は、今や外国人の買い越し額12兆円をはるかに凌駕する18兆円に至った。18年3月末の時価ベースで推計24兆円に達する。

株式市場の恐ろしさを知らない「ど素人集団」が、自分たちにひれ伏す人間と同様に、いくらでも操作可能だと思っているのだ。自己資本3兆7000億円の日銀にとって、株式市場が40%下げれば株式の含み損だけで自己資本が吹っ飛ぶ。日本のバブルの最高値3万8915円のあと日経平均は2003年に7607円まで(▲80.4%)2009年には7054円まで(▲81.8%)下げたのだ。

2018.4.17.記