『アメリカ大統領選挙によるある種の影響』  

千葉の県人 鎌田 留吉

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筆者近影

11月8日の米大統領選挙が近づいてきた。

今回が選挙前の最後の機会なのでこのテーマを選ぶこととする。

今の金融庁長官の森信親氏はいわゆる金融機関、特に地銀のあるべき姿に関心が傾いている。みずほフィナンシャルグループ(以下「みずほ」という)が推進する「ワンみずほ」=「銀行・信託・証券の連携による顧客開拓及び商品販売」についてはむしろ極めて前向きである。
そして、アメリカの選挙戦に於いて、クリントン及びトランプ両候補が、銀行と証券を完全に分離していたグラス・ステイ―ガル法の復活に賛成していることについては関心を持たない。

しかし、トランプ氏は明確に、クリントン氏も民主党のライバル候補であったサンダース氏にひきずられる形で、1933年の大恐慌後に成立し1999年まで続いたグラス・ステイ―ガル法(2014年の5月号参照)を復活させ金融機関と証券業を完璧に切り離す方向を志向している。

グラス・ステイ―ガル法は2つの目的を持って成立した。1つは金融機関が証券業を兼務し過大なリスクをとることを避けるという目的である。そしてもう1つは銀行がよく知りうる立場にある貸出先の企業に債券を発行させ、個人に販売することにより、当該企業のリスクを自分から個人に転嫁させる利益相反行為を回避するためである。

日本でも以前は、銀行業と証券業は、証券取引法65条により截然と切り離されていた。私が証券業の現役の頃も「ファイア・ウォール」という言葉で両者の境界を踏み外さないようピリピリしていたものである。しかし、今や日本でもその境界は取り払われ、「みずほ」のようにワンストップ的メリットを謳う金融機関もあらわれた。

ソフトバンクが英国の半導体企業アーム社を3兆3千億もの巨額で買収すると発表したとき「みずほ」はいち早く1兆円のつなぎ融資に応じると手を挙げた。そして、案の定、「みずほ」が主幹事となり個人投資家向けに4,000億円、機関投資家向けに710億円の「利払い繰り延べ条項・期限前償還条項付無担保社債(劣後特約付き)」を、25年満期、利率3.0%で発行した(日本格付け研究所のBBBの格付け)。非常に複雑な発行条件でありながら高利率に引かれてか個人には好評であったが、運用のプロである機関投資家には不評であったという。

アメリカの大統領選後の米国の政策変更は、何年か後には間違いなく日本に影響を及ぼすであろう。そのときソフトバンクの格付けが投資適格であることを願う。

 

2016.10.18記