『晴れた日には雨傘を(或いは孫氏の兵法)』

千葉の県人 鎌田 留吉

9月29日のIMF発表の記事によると、2014年時点の新興国企業(除金融機関)の借金が10年前の4.5倍になり2,150兆円に登ったという。これは大変な金額だ。永続的に見えた中国の経済発展の、おこぼれにありつこうと、諸国の企業群が借金を申し出、銀行或いは債権者が、喜んで、積極的に貸し込んでいった結果である。しかし、世界経済の牽引役たらんとエンジンを吹かし続けたその中国も本格的な景気後退に入ったことを隠しおおせなくなった。その負の影響は資源輸出国の豪州やブラジルは勿論、中国への輸出入比率の多いアジア諸国に決定的であろう。実際資源からみのジャンク債は暴落している。そしておそらく世界中の銀行はもう既に深く静かに貸しはがしを始めていることだろう。銀行マンとはそのような人種なのだ。世界的な超超金融緩和のもとで、自己資本比率を低め、負債比率を高めることを勧める、「欺瞞に満ちたROE論者」が跳梁跋扈してきた。しかし、負債比率の高きが故の負のスパイラルが、いよいよこれから世界規模で始まるのである。

日本のメガバンクも、ここ数年、アジア向け与信においてプレゼンスを高めてきた。アジアにおける貸し倒れは、自ずから日本企業への貸しはがしを引き起こさずはいないだろう。レバレッジとかLBOとか一見聞こえがよいが、あくまでも右肩上がりのときの戦略である。一旦右肩下がりになったとき、所謂「投げ、投げ」になるのだ。日本で最もレバレッジを効かせて成長を重ねてきたのが、ソフトバンクの孫氏である。ほとんど何をやっているのかもわからないソフトバンクという会社を彼一流のプロパガンダにより高株価に導き、大借金をして、まずボーダフォンを買収した。これは結果的に大正解であった。しかし、矢張り、というべきか二匹目の泥鰌はいなかった。再び大借金をして買収したスプリントという携帯電話の会社の発行する債券3兆8700億円(6月末現在)が、ムーディーズが格付けを引き下げたためをジャンク債になったのだ。世界第3位の(米国第1の)ジャンク債であるという。ソフトバンク本体は貸しはがしの心配はないのだろうか?それは深謀遠慮の孫氏であった。本体の6月末の長期借入金は2兆1千億であった。その代わり社債残高を4兆1千億にしていた。そのうち1兆7千億の無担保普通社債を、今日本シリーズに挑もうとする「福岡ソフトバンクホークスボンド」と名付け個人向けに売り捌いていた。また8,500億円の無担保劣後債を同じく個人向けに売り捌いていた。どうかこれら個人向けの2兆5,500億円もの無担保社債が、いつまでも投資適格債でありつづけますように。因みに6月末現在、勝手格付けのS&Pもムーディーズも投資不適格債としていますが、日本格付研究所はA-としていますから安心して下さい。但しスプリント債がジャンク債になる前のことですが。


2015.10.19記