2020年7月25日(No.11)

「クール・ジャパンと日本の未来」

2012年の春頃、私は勤めていた投信会社で1本の日本株投信を提案したことがあります。それは『クール・ジャパン』という愛称の商品で、海外から見た日本の魅力に投資する今までにない切り口の日本株投信でした。

当時の日本経済は前年に起きた東日本大震災の傷跡も大きく、日経平均も民主党政権の下、8千円台で低迷していました。案の定、「何でこんな時に日本株なのだ?」と私の提案に積極的に賛同する人はほとんど現れませんでした。ましてや、このファンドの銘柄選定基準を感覚的な「カワイイ」「美味しい」「心地よい」としたのも前例になく、頭の固い方々には理解し難かったと思います。

それでも私はアジアの経験から、日本に大きなブームがやってきている、これからは多くの外国人が来日し、日本のクールな魅力に共感し、写真にあるような商品やサービスを日本国内で、また海外ではオンラインなどで大量に購入する時がくるという見通しに自信を持っていました。

そして、その予想は暫くすると的中します。年間800万人程度が普通だった訪日外国人数は、昨年には3,000万人を超え、彼らの猛烈な購買行動は「爆買い」という流行語になりました。

『クール・ジャパン』は、2013年の5月に小型のファンドでしたが、やっとの思いで商品化に漕ぎ着け、現在運用7年を過ぎたところです。その設定から今年6月末までの基準価額は108%上昇し、TOPIXの37%を約70%上回っています。

海外消費関連日本株ファンド
愛称:クール・ジャパン

大方のアクティブ・ファンドがベンチマークに勝てない投信の実情を考えると、それなりのパフォーマンスだったと言えます。今年から始まる新型コロナウイルスの拡大による訪日外国人の激減も、今のところファンドの運用成果に大きな痛手を与えていないようです。やはり、組入れ銘柄の絞込みが功を奏したのでしょう。

私の考えるクール・ジャパンは、19世紀の後半にヨーロッパで起きたような一時期な日本趣味(ジャポニズム)ではなく、またアニメなどのコンテンツの輸出が中心の狭い範囲に限られるものではありません。それは、日本経済がこれから生き残っていくための、非常に重要な成長戦略だと思います。一筋の光明と言っても良いかもしれません。

その本来の魅力を外国人目線で正しく理解し、SNSなどを通じ戦略的に海外に発信すれば、地方の活性化はおろか日本経済にも大きなインパクトをもたらすと考えています。しかしながら、日本の官民ファンドの一つであるクール・ジャパン機構は、この折角のチャンスを活かしきれていません。クール・ジャパンの魅力の絞込みと見せ方がとても下手だと感じます。

かなり前になりますが、私は中国経済や株式市場についての意見を伺うために、「お金儲けの神様」と呼ばれた邱永漢氏に2度お会いしたことがあります。その後も氏の見方をメディアで追いかけていましたが、2012年の5月にお亡くなりになる1ヶ月ほど前に書かれた文章が大変印象に残っています。

邱先生は、「シャッター通りの向こうに新しい産業が」や「地方に生き残った企業が次の成長産業」というタイトルのコラムで、「一巻の終わりだと思っていた日本の地方都市には、逆境の中で生き残っている新しい地元企業があることに最近になってやっと気づいた」と述べておられます。

この先生の日本の地方に再び期待の眼差しを向けられた変化には、それがちょうど私が『クール・ジャパン』の企画をしていた頃なので、余計に驚きました。世界の人が共感し欲しくなるクールな商品やサービスを提供している企業は、上場企業にも勿論ありますが、むしろ地方に多くあります。私はファンドのコンセプトに更に自信を深めました。今思うと邱永漢氏の先見力はやはり凄いですね。

在りし日の邱永漢氏
澎湖島のニガウリ日誌 より

グローバルよりもローカル、都市よりも地方の時代が、ポストコロナの新しい生活様式とデジタル化の波に乗る時、日本の伝統と風土が生み出した「カワイイ」「美味しい」「心地よい」の『クール・ジャパン』の魅力のファクター3が、より強力な発信力をもって世界を魅了するのではないかと期待しています。