2020年4月25日(No.8)

「インド経済の可能性③ - 人の力 - 」

今年の2月号に続きインド経済の可能性第3弾をお届けします。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、インド経済にも大きな試練を与えています。再び成長軌道に乗ることは短期的には困難です。
しかしながら、現下の危機は1方でインド経済が抱える、原油価格の高騰、国境紛争の勃発、大気汚染問題の深刻化などに起因するリスクを緩和しているとも言えます。
今回は、コロナ以後を見据えた中長期の視点で、インド経済の可能性を「人」をキーワードに、日本、中国、アメリカと比較して見てみます。

1. 人口の増加 昨年の日本の出生数は統計開始以来最少の約86万人でした。梓みちよさんが「こんにちは赤ちゃん」でレコード大賞を取った1963年には166万人の赤ちゃんが生まれ、それが第2次ベビーブームに繋がり、日本経済の高度成長の基盤となったことを思い起こすと、何とも寂しい数字ですね。インドのこの10年間の年平均出生数は約2,600万人でした。

2. 人口の移動 1980年の中国のGDPはインドの約1.6倍でしたが、現代は5倍です。その差の拡大の要因は主に都市化のスピードの違いにあります。今から40年前の都市化比率は両国とも20%近辺でしたが、現在は中国が約60% インドは34%です。また、都市人口を比較すると中国は現在約4億人、インドを上回っています。人口の都市部への移動は大変強力な内需のエネルギーを発生させます。人口はただ増えるだけでは経済成長に繋がりません。インドでは、これから急速に都市化が進み、2050年までに都市人口が3.5~4億人増えると予想されています。日本の人口の3倍が都市部に住み始めるわけです。だから、ユニクロも昨年大きな期待をかけてインドに出店したのだと思います。

3. 高度人材 昨年インドのバンガロールにあるスタートアップ企業の役員に、グローバル企業のインドシフトの状況について質問した際、1つの例で教えてくれました。それはIBMです。同社の世界の従業員の約40%は、現在インドのプネという1つの都市にいるそうです。これは凄いことです。ニューヨークに本社があり、世界で最も多くのAI関連特許取得件数を誇るIBMが、それ程までにインドの人材に依存している。最早インドの高度人材なしでは、これからの世界企業の成長はないという印象でした。因みにIBMのCEOはこの4月からインド出身のクリシュナ氏(写真)になりました。他にも、AI特許で優位に立つアメリカ企業のマイクロソフトとグーグルのCEOもインド出身です。インドは人材の宝庫です。

日本経済は、少子高齢化と高度人材不足という中長期の深刻な問題に直面しています。そこに新型コロナウイルスという大打撃が加わり、将来がますます心配です。この日本とは正反対に人口の増加と移動、そして人材の高度化が同時に進むと期待されるインド経済は,コロナ以後の中長期の投資先として無視できません。